

歴史街道(PHP研究所)巻末連載、城紀行~戦国の風より
滋賀県長浜市、近江国は小谷城。戦国大名・浅井長政の本拠であり、難攻な山城であったが、天正元年(1573)、敵対する織田信長に攻め滅ぼされた。
深い緑に覆われた小径を抜けると、まるで誰かが訪れるのを待っていたかのように、野面積みの石達が私をみつめ、なにかを訴えかけている気がした。それら一つ一つに主君の為、家族の為、己の為に必死で生き、散っていった武士達の鼓動、息づかいが感じられた。そこは彼らが静かに眠る、張り詰めた空気と静寂が支配する聖域のようだった。
12年前、私が人生で初めて山城へ単独登城した際、私自身、特別な霊能力や神通力を持っているわけではないが、ここでの体験がその後、全国城郭行脚をはじめるきっかけとなったのだった。








